(第3回)わたらせ渓谷鉄道で行く水沼温泉(群馬県) - 心に残る日本の旅/温泉、ローカル線、宿 (井上晴雄)

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(第3回)わたらせ渓谷鉄道で行く水沼温泉(群馬県)

(第3回:水沼温泉)わたらせ渓谷鉄道で行く駅舎温泉

(地図を見る)群馬県勢多郡黒保根村


■温泉がたくさんある北関東の都道府県といえば、真っ先に群馬県が思いつく。先日、そんな群馬県に行く機会があった。 東京から 高崎で乗り継ぎ、 JR両毛線揺られながら、沿線に温泉がないかと地図を眺めていると、線路上に温泉のマークがあるのを発見した。それは、 わたらせ渓谷鉄道の水沼駅にある「水沼温泉センター」 。施設の名前からも、駅舎に湧いている温泉だと予想できた。初夏の日差しがやや陰りはじめた昼下がり、わたらせ渓谷鉄道に乗り換えようと 桐生駅で電車を降りた。

■わたらせ渓谷鉄道は、群馬県の桐生駅と栃木県の間藤駅の間、約44kmを繋いでいる第三セクター鉄道である。前身は大正元年(1912年)に開通した国鉄足尾線。当時は銅や生糸など産業資源を運ぶ役割を担っていたが、平成元年(1989年)、私鉄へ転換されてからは、四季折々の渓谷美を見所にする観光路線へと様変わりした。
水沼(電車)


■桐生駅のホームで列車を待っていると、あずき色の二両編成がゆっくりと入線してきた。扉が開き、学生たちがぞろぞろ降りたあと、ひとりのおばあさんが野菜の入った買い物袋を提げて乗り込んでいく。車内はガラガラで座席は選びたい放題だった。しばらくして列車は軽やかなディーゼルエンジン音を立てて 織物のまち・桐生発車した。JR両毛線との共用区間をしばらく走り、渡良瀬川の鉄橋を越えると、伝統産業の風情を漂う民家が車窓を流れた。時折、麦畑も顔をのぞかせている、そんなのどかな風景を列車はのんびり縫い、運動公園駅、相生駅と各駅に停車していく。



水沼(車内)
水沼(緑の休憩)■急に緑の中に入ったのは大間々駅を過ぎてからだった。レンガ造りの短いトンネルを抜けると突然、耕地がなくなり、杉木立の斜面が急傾斜で谷へ落ちていた。列車はその崖にしがみつくように山肌をゆっくりときしみ、曲がりくねる。ふと渓流を見下ろすと、白く早く流れ る水が、岩にぶつかってしぶきをあげ 山ツツジが渓流に紅色の影を落としていた。陽だまりの上神梅駅に到着。買い物袋のおばあさんはここで降りた。小屋のような駅舎にはリンドウが咲き、ひとりのおじいさんが丁寧に水遣りをしていた。駅を後にすると、またもやトンネルにさしかかる。随分遡上してきたのか巨岩がごろごろとしてきて、釣り糸を垂れる人の姿も見える。木漏れ日が美しい本宿駅でしばらく停車。車掌が汗をぬぐいながら切符を集めている。緑の深いあたりからはヒグラシの美しい音色が聞こえてきた。汽笛の音と共に発車すると、列車は、まるで廃線跡のように夏草に覆われた線路の上を、丁寧に辿っていく。木々が鬱蒼と覆いかぶさり、正に幽谷といった趣。周囲は黒檜山や荒神山など1000m~1800m級の山々が迫る山岳地帯。
水沼(外観)

■数分後、景色がようやく開けて、目的地の水沼駅に到着した。既に陽は西に傾きはじめており、軒を支える柱がホームの上に長い影を落としていた。高架橋を渡るとすぐに 水沼温泉センターの入り口になっていた。「いらっしゃいませ。」係の方快活な声に、深々と会釈をして館内に入る。入って右手の大広間からは団体客がまとまって食事をしているのか楽しそうな笑い声がこだましている。入浴券を買って左手の温泉へ向かった。順路に従って細長い渡り廊下が延び、木造の格子戸の隙間からは緑が溢れていた。すぐ右手に大浴場・せせらぎの湯の入り口があった。浴室に入ると数人のおじいさんが入浴を楽しんでいた。「先週のゲートボールは楽しかったですな。」「そうですな、来週もぜひ行きたいですな」。大きく切り取られた窓からは渓谷を一望でき、緑が湯に映っていた。


源泉は6㎞ほど離れた 猿川温泉で引き湯をしているのだとか。泉質はさらりとした食塩泉で、神経痛、関節痛などに効能があり。大浴場には サウナや 水風呂もあるからゆっくりくつろげそうだ。


水沼(湯)大浴場から渡り廊下を更に進んでいくと、突き当たりに「カッパ風呂」と書かれた暖簾が初夏の風に揺れていた。その足元には、石で造られた 河童のモニュメントが佇んでいる。看板によると、近くの淵ではカッパ伝説があるらしい。何となく不思議な気持ちで暖簾をくぐると円形の露天風呂が現れた。木の香りのするまとまった空間には荒い岩肌の湯船が座り、透明の湯が波紋を描いてきらきら揺れていた。対岸の山々の緑が湯に映り、眼下には 渡良瀬川のせせらぎの音がして眺めているだけで心休まった。


湯上りに渓谷の遊歩道を歩いた。風のそよぎが気持ちいい。渓流をのぞきこむと、川底の小石が見え、川魚がさっと泳ぐ去って陽炎のように滲んでいく。少し上流に行くと、伝説のカッパがいるという淵があった。 奇岩が重なり合い葦が群生していて、いつ現れてもおかしくない雰囲気が漂っている。そこまでの道沿い続くのは八重桜の並木。春は桜の花びら舞い、秋は赤や黄色の葉に渓谷中が彩られることだろう。


今回の旅は日帰りだったが、次回は桐生あたりで泊まって、臨時便のお座敷列車や トロッコ列車で訪れてみるのもいいかもしれないなと思った。

水沼(上流)

<水沼駅温泉センター>

(電話)0277-96-2500
(住所)群馬県勢多郡黒保根村水沼字早房120-1
(入浴料)大人500円、10~21時(12~3月は~20時)
(休み)毎月25日(土日祝日の場合は営業、翌日休み)
(交通)わたらせ渓谷鉄道水沼駅(上りホームに併設)
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